三菱重工の水素エンジン開発

2022年4月20日

本編

三菱重工が、水素を燃料とするエンジンを開発しています。水素は天然ガスと比べて燃焼速度が速く、安定燃焼させることが極めて困難です。三菱重工では、水素を使ってレシプロエンジンを安定動作させる条件を確立したと発表しています。

このエンジン自体は、新規に開発したものではありません。天然ガスなどで動作するガスエンジンを応用しています。

水素エンジンには「窒素酸化物」、「バックファイア」、ノッキング」という三つの大きな課題があります。

窒素酸化物

水素は燃焼すると。3000度程度と非常に高温になります。しかし高温になり過ぎると、空気中の窒素と酸素が反応して、窒素酸化物になってしまいます。この窒素酸化物は人体に有害なため、発生を抑制する必要があります。

バックファイア(逆火)

エンジンの吸気側に炎が逆流する現象です。バックファイアが発生すると、吸気系の損傷につながります。

ノッキング

エンジンの点火時期が早すぎる場合や、圧縮比が高すぎる場合に混合気が自然発火してしまい、シリンダー内圧が急激に上昇し打撃音、振動、エンジン内部の部品損傷の原因となります。

これらの問題を解決するために、三菱重工は「水素燃料の供給方法」、「着火方法」、「吸気弁操作のタイミング」、「空気過剰率を調整することで、安定燃焼を実現できた発表しています。具体的なパラメータについては、企業秘密となっています。

三菱重工が開発しているレシプロエンジン以外にも、水素ガスタービンというものも存在します。三菱日立パワーシステムズは、水素ガスタービンをアメリカの発電事業者から受注しています。

水素ガスタービンが実用化されているのであれば、これで充分ではないかと思われるかも知れません。しかしこの水素ガスタービンは、水素を30%混ぜた状態の混焼運転をすることしか出来ません。水素のみを燃料とする水素専焼ガスタービンは、2045年頃の実現が目標となっています。2021年時点で実用化の目途が立っている水素100パーセントのレシプロエンジンは、充分な価値があります。

三菱重工は最終的に1000[kW]の出力を持つレシプロ水素エンジンを開発することを目標としています。

三菱重工は、この水素エンジンを【イブロックス】に使用するとしています。EBLOXは「太陽光発電」、「ガスエンジン発電」、「リチウムイオン電池」を組み合わせた電源供給システムです。

イブロックスは、天然ガスを使用したガスエンジン発電を行っていますが、ガスエンジンの燃料を水素に置き換えることが目標です 。イブロックスについては公式の動画がYouTubeにアップされていますので是非ご覧ください。

⇒イブロックス公式動画 

イブロックスに使うという利用目的には、燃料電池の方が敵しているように思います 。トヨタの燃料電池自動車、新型MIRAIの燃料電池は114キロワットの出力があります。新型MIRAIの燃料電池スタックを10台用意すれば、1000キロワットを余裕で供給することができます。燃料電池の方がエンジンより動作温度は静かだという利点もあります。

但し、エンジンは貴金属を使わないため、燃料電池より安価に製作できるというメリットがあります。ただ、エンジンオイルの交換など、燃料電池より多くの定期点検が必要となるため、トータルコストではどちらが安くなるかは断言は出来ません。

騒音と点検コストがあまり問題にならない用途としては、飛行機があります。飛行機は多少の騒音は問題ならず、元々飛行時間に応じた定期点検も義務づけられています。1000馬力というエンジン出力であれば、小型の単発機くらいならば飛ばすことができます。但し、この程度の大きさの飛行機を作っても、経済的な意味はさほどありません。

水素ガスタービン

三菱重工は水素ガスタービンエンジンを開発しています。従来のガスタービン発電機の【燃焼器】部分のみを交換するという新しい提案です。タービン部分を交換しようとすると費用が嵩みます。燃焼器だけであればハードルが低くなる。

酸素水素燃焼方式
政府は【酸素水素燃焼方式】を研究しています。普通に空気を使って水素を燃焼すると高温により窒素酸化物も生成されてしまいます。窒素を含まない、純粋な酸素であれば発生しません。

三菱重工は酸素水素燃焼方式より現実的なソリューションを提案しています。前提として窒素酸化物の発生は許容します。三菱重工は【拡散燃焼方式】を目指しています。水素と空気を燃焼室内に直接投入する仕組みです。予め、水素と空気を適正比率で混ぜてから燃焼室に投入する【予混合燃焼方式】の方が窒素酸化物の発生量を抑制できます。しかし【逆火】のコントロールが難しいという難題があります。逆火とは燃料の供給系に燃え広がってくるということです。逆火が続けば、壊れてしまいます。

三菱重工は【予混合燃焼方式】において天然ガスに水素を30%混ぜた燃料を使用してガスタービンの混焼実験に成功しています。

水素の比率を上げれば【燃焼温度】も上がります。温度が上がると【逆火】しやすくなる。
拡散燃焼方式であれば、燃焼室内で初めて空気と水素が接触するため逆火の心配がありません。
→ 水素100%の燃焼に成功しています。

窒素酸化物
天然ガスを使わない【水素専焼】と引き換えに窒素酸化物という厄介なものが発生します。
窒素と酸素という単体では無害な元素ですが窒素酸化物になると人体に悪影響を及ぼします。
具体的には呼吸器に障害を与えます。

窒素酸化物
燃焼時に発生するのは主に【一酸化窒素】です。
大気中で酸化して【二酸化窒素】になります。
窒素酸化物の中でも【一酸化二窒素】は笑気ガスとして医療分野で使用されています。

温室効果ガス
【一酸化二窒素】は温室効果があります。
【一酸化窒素】と【二酸化窒素】に温室効果はありません。
→ 上空でエアロゾルを形成して   温室効果を減少させる働きがある。

NOx【ノックス】
窒素酸化物には更に種類があり三酸化二窒素、五酸化二窒素などもあります。
総称して【NOx】と読んでいます。

拡散燃焼方式【マルチクラスター】
三菱重工が開発中の【マルチクラスター】方式では複数の燃焼ノズルを燃焼室内に設置することで安定した燃焼を実現するとしています。もちろん【水素専焼】方式となります。

排煙脱硝技術
発生する窒素酸化物は除去技術が確立されています。
窒素酸化物の除去設備とセットで導入することにより大気汚染の問題は解決することができます。
燃焼器だけの交換では済まないはず。

ガスタービン事業は三菱重工の子会社【三菱パワー】の管轄。
2014年、三菱重工と日立製作所の火力発電事業を統合した
新会社【三菱日立パワーシステムズ】が誕生しました。

2020年9月1日、日立製作所が全株式を三菱重工に売却した結果
社名が【三菱パワー】に短縮されました。

2021年10月、三菱重工から独立させておく意味が無くなった。
→ 三菱パワーは【三菱重工】に再び統合する予定です。

三菱重工業は脱炭素事業を成長戦略の柱と位置付けています。
2021年度から3年間で900億円を投じる計画です。
年間300億円程度と欧米や中国企業と比べると桁違いに小さい。

動画はこちら

まとめ

  • 三菱重工が、水素エンジンを安定燃焼させることに成功しました。
  • これにより大出力が必要な分野においても、水素を利用できる可能性が出てきました。
  • 個人的な意見ですが、国内メーカーは誰もやろうとしない水素飛行機を飛ばして欲しいところです 。

 

水素

Posted by @erestage